ソフトウェア開発者から見たベンチャー企業と老舗企業の比較

私がベンチャー企業で働いていたときと、その後、老舗企業で働いているときに感じた差を挙げていこう。もちろん企業によって千差万別あるが、ひとつの参考にしてほしい。

ベンチャー企業と老舗企業の時給

まず最初に話すべきは時給の話だ(あなたがもっとも聞きたいことだろう)。どちらの時給の方が高い、低いというものはない。四季報で見ると給与の平均額は老舗企業の方が高いが、あなたの父親世代の人が平均額を伸ばしている可能性がある。

大切な違いは、将来の見通しだ。ベンチャー企業において、時給のあがる堅実な見通しは立たない。事業が大きく成長すればそれに伴いあなたの時給も上がりやすくなるし、そうでなければ下がることも、仕事を失うことすらある。老舗企業は、過去の事業成績に応じてどの職位の人がどのくらい時給があがるか既にデータがある。もちろん、あくまで予測値に過ぎないが、あなたの時給が10年後にどのくらいになっているかある程度の見通しは立つ(殆ど変わらないということを含めて)。

IPOで金持ちになれるか

ほとんどの場合、ノーだ。

ベンチャー企業に入りIPOでお金持ちになるということは、多くのソフトウェア開発者にとっての夢だ。あなたが素晴らしいコードを書き、製品を実現する。魅力的なCEOがあなたの製品を広報し、売り、銀行からお金を借り、ベンチャーキャピタリストたちから投資を受ける、そして製品が市場を占有し、上場する。

素晴らしい夢だ。この夢を叶えるため、多くの大変優秀なソフトウェア開発者が昼夜問わずコードを書き、CEOと共に銀行をまわり、下請けに製品の開発を指揮し、請求書の金額を払いに銀行に行き、ベンチャーキャピタリストたちにFacebookの友達申請をする為、BMWに乗ってパーティに向かうCEOを見送るのだ(運もしくはCEOの記憶力が悪ければ、あなたは製品の説明のためにBMWに同乗する)。こうして作られた製品の殆どは陽の目を見ずに消えていく。

あなたも既に承知のことだが、ソフトウェア開発者が創立者としてベンチャー企業に参加するとき、あなたは既にソフトウェア開発者ではなく起業家として生きることになる。それはとても楽しいことだが、あなたが聞きたいのはそうではないだろう。既にCEOとCTOが活躍する組織(しかも勢いのある)企業に入社して、おこぼれを貰えないかということだろう。おこぼれがもらえるケースとして、あなたがCTOの友人であり、彼に誘われて入社する場合、交渉することができる。しかしこの時点ではストックオプション契約を具体的に結ぶことは難しい。CEOは生き残ることに必死で、あなたにいくら分のあるいは何%のストックオプションを付与すればよいか、検討さえできない場合がほとんどだろう。そうするとあなたは時給以外の何も持たずに働くことになる。

ベンチャー企業と老舗企業の技術

使用している技術はどうだろうか。ベンチャー企業は比較的新しめの技術を採用することが多く、老舗企業はそれまで利用してきた安定した技術を採用するが、それは何故だろうか。

技術に対する評価の仕方が違うからだ。ベンチャー企業は、より賢く、より早く動く技術を自分たちで選ぶ。一方、老舗企業はベンダーを通してリスクの少なくサポート期間の長い技術を選ぶ。危機に対する考え方の違いだろう。老舗企業は障害時に受ける損害の総量が大きい。もちろんベンチャー企業も障害のリスクは大きいが、彼らはこれまで同様の危機を乗り越えているため、リスクとチャンスが同居しているなら、それを選択することがある。

ベンチャー企業で得られる技術は、短い間に陳腐化する可能性もあるが、その時点ではソフトウェア開発者市場で需要の高い技術が使用できる。一方、老舗企業ではリスクが少なく、ソフトウェア開発者市場の需要は低いが長期間に渡って使用されるであろう技術が使用できる。

ベンチャー企業と老舗企業で形成できる経歴

ベンチャー企業はあなたが優秀であれば驚くほどの早さで役割が変わる。あなたは複数のサイトの開発を行なっていたかと思えば、明日には広告配信機能の改修を行なっているだろう。来月からはインターネットメディアの立ち上げを行うし、半年後には取引先との共同プロジェクトのリーダーをしているかもしれない。あなたは様々な経験が積めるし、偉くなれば使いたい技術を選ぶことができる。役職を貰えるのも早いだろう。あなたが企業で最も若い開発者であっても、最も高い職位に就くことが可能だ。

あなたの経歴書は文字でぎっしりになるが、何の専門家と言っていいか難しくなる。様々な経験をあなたの中でどう結びつけていくかを走りながら考えなければならない。

老舗企業はあなたが優秀かどうかはあまり関係ない。何故ならあなたの周りの人は同じくらいあなたと優秀で、同じくらいの水準の人間が集まっているからだ。あなたがそこですることは、老舗企業の型(格闘の型のように決められた様式がある。DBにテーブル追加するときの許可の取り方から、手洗い場での手の拭き方までにもだ)を覚え、その型を修練する。型を覚えるのに数年かかるだろうが、その間使用する技術は恐らく変わらないし、あなたの役職が変わることもない。

あなたはその技術の専門家になるが、同時に新しい技術を自己学習しないといけない。うっかりその企業の型の専門家になってはいけない。型はその企業でしか使用できないものなのだから。

ベンチャー企業と老舗企業の人間

ベンチャー企業は多くの人の背景が違う。また数年で人が入れ替わるため、似ている人と会うことは稀だ。このため、目指したい社内文化が文章化されていたり、経営者や特的の人を理想的人物像として崇拝(失礼、よい表現が見つからなかったのだ)することがある。絶え間ない変化に対応するため、多くの人はエネルギッシュで、自信に満ちているし、社交的な人も多い。ややもすると攻撃的なスイッチが入りやすい人もいる。合理性や客観性を重視すると同時に、友人関係のような飲み会や遊びで交流を行う文化をもつ企業もある(年齢層の近いベンチャー企業ではよくある)。

老舗企業は新卒から生え抜きで所属し続けている人や、勤続歴の長い人が多い。一緒にいる時間が長いからか、お互いの人となりを理解し、穏やかな関係を築いている。ゴルフ、マラソン、山登りなど、社内サークルで部署を超えて交流している人もいるようだ。波風や対立を好まず、はっきりとした物言いは嫌われる傾向がある。新参者が馴染むには多くの時間が必要なこともある。

あなたが企業に属する目的はなにか

あなたが企業に所属する目的はなんだろうか。生活資金を得るためであることは間違いないが、それだけではないはずだ。あなたが企業に求める環境はどんな環境だろうか。

どんな環境であっても、あなたは常に技術を学び、知識と経験を増やしていくことだろう。あなたの得たいものに近づくルートを構築し、そのためにどの企業に属するのがもっとも違いか考えよう。あなたはどんな企業にいても、常に目標をイメージし続けなければならない。イメージにより近いのはどこか、というだけなのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA